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ブレイク

仕事中に妻から電話があった。

心臓が異常にドキドキして、倒れてしまいそうになったと言う。

妻はたった一人で美容室を切り盛りしている。

お客さんのいない時間。

妻はビルの大家さんの奥さんを呼んだ。

「今は少し落ち着いた。でも、いつもと違う。おかしいの。このまま病院へ行く」

携帯の声ははっきりとしていたが、

何か心をざわつかせるような響きがあった。

私は仕事を中断して家に帰り、

妻の保険証を持って病院へ駆けつけた。

2007年10月11日木曜日のことだ。

内科の待合室の長椅子に座って、妻は待っていた。

「なんか、貧血みたい。極端に鉄分が不足してるって」

元々妻には貧血の気があったような気がする。

「そうか。きっと貧血がきっかけになって、パニックになったんだよ」

私は、自分の経験も含めて病気を解釈しはじめた。

「倒れそうに感じたところで、店にたった一人しかいないってことが

きっとパニックの引き金になったんだ」

ラッシュの電車内でパニックになって救急車に乗ったことがある私は、

訳知り顔でもっともらしいことを言っていた。

「ねえ、パパさ、私、お店続ける自信、なくなっちゃった」

もう何度目だろう。

また妻が弱音を吐いた。

「そうだよな。そう思っちゃうよな。一人だしな」

私は表面上は共感してみせるが、本気で店を閉めようと思ったことはなかった。

「わたし、仕事やめようかな」

あの店は、妻が節約を続けてコツコツ貯めた700万を元手に開いた店だ。

20数年、妻の城だった場所だ。

私には、妻がその店を手放して、もし健康を取り戻したときに、

きっと寂しい思いをするに違いないと思っていた。

妻は50歳代前半だ。

更年期のせいかもしれない。

その更年期が変われば気分も変わるかもしれない、

そんなふうに考えていた。

そして、

そしてだ。

私の給料だけでやっていくことに、実を言えば不安があった。

私は、10年以上前に、安定した仕事を捨てて、

給料のめちゃくちゃ安い会社に就職した。

今も新卒と同じくらいの給料だ。

「じゃあ、俺、転職しようかな」

昔の資格を活かして、臨時の仕事でもしようかという考えが浮かんだ。

「いや、俺が転職したがったとき認めてくれてさ、

店の営業時間短くさせちゃったりしたからさ、

今度は俺が頑張る番かな、ってね」

半分本当で、半分はウソだ。

私は、今ようやく仕事がノってきたところだ。

今は職場を変わりたくない。

自分の給料だけで生活が成り立つ自信がなかったから、

そんなことが浮かんだだけだ。

「そう。」

妻はずいぶんガッカリしたように床を見つめた。

看護士が妻の名前を呼んだ。

診察室に入っていく背中が、

心なしか丸まっているようだった。
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テーマ : ガン治療 - ジャンル : ヘルス・ダイエット

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こんにちは、理人(Lied;リート)です。
妻は50代前半、私は40代前半です。


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